海は日曜日のもの

未完の海の記録|Nazaré

美を愛することに野に出てて労働すること、それらはすべて、冬の朝に集積される|Castelo Branco・Monsanto

出立

雨の火曜日、新しい生活が幕を開けた。

逃避行のはじまりのような、散歩に出かけるような、これからの生活にはおよそ似つかわしくない気分を鞄いっぱいに詰めこみ、飛び出してきてしまったことに笑いたくなる。

両の肩に、腕に仄かにかかるバッグの重みだけに、これから流れる長い時をおもう。

駅の近くで飲んだオレンジジュースの甘さが目に染みる。

幾度経験しても、離陸の瞬間には息をとめ、肘掛けをつよく握りしめたくなる。

ひこうき

まもなく機内では灯が消され、等しく擬似的な夜が訪れる。

飛行機は滑るように夜を突き進んでゆく。

近づくにつれ朧に浮かび上がる街の灯はマグマ溜まりのようで。

ひとつひとつの窓から零れおちる光が、人々の営みの模様を描く。

やがて、飛行機はゆるやかに上昇し、雲を突き破る。

雲上にも、いつのまにか夜が訪れている。

夜の空をゆくフライトはまるで、砂漠を旅するようだ。

サン=テグジュベリが王子と邂逅したのも、こんな夜空の上だったのかもしれない。

途中立ち寄ったドイツ、フランクフルトでは美味しく食べてね、と素敵に目配せをしながら、

会計のおじさんがナプキンを差し出してくれた。

そーせーじ

頑なに、首を横に振られた入国審査と。

おじさんが綻ばせた、円かな頬の愛らしさとの間に広がる深い谷にくすりとわらう。

わたしはまだ、ドイツのことをなにも知らないのだろう。

ソーセージからは、見知らぬハーブの味がした。

空気が、からりと乾きがちな機内ではこまめに水分を配り、

食後にはかの有名なアイスクリンを差し出してくれた日本の航空会社にはすみずみまで、行き届いた心遣いと頭の先から足のさきまでぴんと伸ばされた佇まいの美しさを感じた。

すべてが整頓され、滑らかに事が進むことが無意識化でも可能な日本の風土で頭ひとつ抜きだし、「特別」を勝ちとることのむつかしさとかなしい性を。

老若入り交じり、これからランニングにでもでかけてゆけそうなラフな服装で、持ち前の朗らかさと共に夕食を振る舞ってくれたポルトガル航空での和やかなひとときのなか、わたしは思いだしていた。

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